実写化の評価
映画『六人の嘘つきな大学生』は、就活最終選考に進んだ六人が匿名の告発文によって互いの秘密を暴かれていく過程を描いた作品です。
浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗ら実力派キャストが揃い、原作が持つ緊張感や重厚な空気を丁寧に映像化しています。
惜しまれるのは、浜辺美波が演じる嶌衣織の“告発内容”だけが映画で明示されなかった点です。
原作では伏線回収に直結する重要な要素であったため、この省略によって観客が消化不良のままラストを迎える構造になっています。
こうした改変の影響を踏まえて、評価は星3つとしました。
作品概要と本記事のポイント
『六人の嘘つきな大学生』は、浅倉秋成氏による小説で、「就職試験」と「その8年後」を描いた二部構成の物語です。2024年には映画化もされました。
本記事では、原作と映画の違いや主な改変点をわかりやすく解説します。
映画『六人の嘘つきな大学生』の紹介
犯人は――誰だ? あの就活で、嘘に殺された。
監督:佐藤祐市
出演:浜辺美波、赤楚衛二、佐野勇斗、山下美月、倉悠貴、西垣匠、ほか
上映時間:113分
公開:2024年11月22日
小説『六人の嘘つきな大学生』の紹介
六つの告発文×密室の心理戦
著者:浅倉秋成
出版社:KADOKAWA
刊行日:2021年3月2日/文庫化:2023年6月(角川文庫)
『六人の嘘つきな大学生』あらすじ(ネタバレあり)
前半|就職試験(主役:波多野祥吾)
IT企業・スピラリンクスの最終選考に進んだ6人の大学生は、共同で課題に取り組む「グループディスカッション」に挑むことになります。
内容次第では6人全員が内定を得られる可能性もあると告げられ、彼らは定期的に集まって対策を重ねるうちに、お互いの長所や性格を理解し、強い仲間意識を育んでいきました。
しかし最終面接直前に、選考方法の変更が告げられます。新たな議題は「6人の中で最も内定にふさわしい人物を1名選ぶ」というもので、状況は一転して競争へと変わります。
ディスカッション開始直後、会議室で大きな封筒が見つかり、中には「波多野祥吾さん用」「袴田亮さん用」など6通の封筒が入っていました。
順番に開封すると、6人それぞれの写真と告発文が記されていました。
袴田亮は人殺し。高校時代、いじめにより部員「佐藤勇也」を自殺に追い込んでいる。
引用元:浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』KADOKAWA
(中略)
九賀蒼太は人でなし。恋人である原田美羽を妊娠、中絶させ、その後一方的に恋人関係を解消している。
(中略)
森久保公彦は詐欺師。高齢者を対象としたオーナー商法の詐欺に加担している。
(中略)
矢代つばさは商売女。錦糸町にあるキャバクラ店「Club Salty」で働いている。
(中略)
波多野祥吾は犯罪者。大学一年生のとき、サークルの飲み会で未成年飲酒をしていた。
内定者を選ぶはずの議論は、告発文の送り主を探す“犯人探し”へと変貌します。
写真が撮影されたと思われる4月20日に予定(アリバイ)がなかったことから、波多野が最も疑われる状況に追い込まれます。
しかし波多野は、自身の飲み会写真の“わずかな違和感”から真犯人の正体に気づきます。
それでも、巧妙に犯人へ仕立て上げられた状況では無実を証明することは難しいと判断し、嶌衣織宛ての封筒を手に会議室を後にします。
後半|それから(主役:嶌衣織)
就職試験から8年後、嶌衣織はスピラリンクスの社員として活躍していました。
ある日、波多野祥吾の妹が訪ねてきて、兄が2か月前に病気で亡くなったこと、そして遺品の中に「犯人、嶌衣織さんへ」で始まるメモとUSBメモリーが残されていたことを伝えます。
宛名が嶌であったため、妹はそれらを嶌に託して帰っていきました。
なぜ自分が“犯人”だと疑われたのかを知るため、嶌は波多野を除く最終選考メンバー4人、さらに退職した元人事部長・鴻上を訪ね、当時の出来事を一つずつ聞き出していきます。
時間をかけて検証を重ねた結果、ついに真犯人へと辿り着きます。
しかし、嶌が最も気にしていた「自分宛の告発内容」について、真犯人は教えてくれません。
その後、嶌は波多野の遺品を改めて整理する中で、最終選考で使用された“自分宛の封筒”を見つけます。
そして、ついにその内容を確認することになります。
原作と映画の違い(ネタバレあり)
原作と映画では、物語の構造やキャラクターの描かれ方にいくつか大きな違いがあります。
特に嶌衣織に関する描写は、映画版で大きく改変されています。
物語の改変|嶌衣織の告発内容の明示
映画
映画版では、スピラリンクスの最終選考に進んだ6人のうち、嶌衣織を除く5人の告発内容が明らかになります。
しかし、最終選考で唯一内定を得た嶌衣織の告発内容だけは、物語の最後まで語られません。
さらに、浜辺美波が原作よりも“したたかさ”を感じさせる嶌衣織を演じていることもあり、彼女の告発内容が何だったのかという疑問を残したまま、映画は幕を閉じます。
原作小説
最終選考から8年後、嶌衣織が見つけた“自分宛の告発内容”は次のものでした。
嶌衣織の兄は薬物依存症。嶌衣織の兄は歌手の『相楽ハルキ』。二人は現在同居している。
引用元:浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』KADOKAWA
スピラリンクスの最終選考当時、歌手の相楽ハルキは薬物使用で逮捕された直後でした。
「同居している」という文言によって、嶌衣織自身も薬物に関わっているかのような印象を与える、印象操作が仕掛けられていたことがわかります。
仮にこの告発内容が選考中に明らかになっていれば、嶌衣織が内定を得ることは難しかったと考えられます。
物語の改変|嶌衣織に張られた複数の伏線
映画
映画版では、嶌衣織に関する伏線は描かれておらず、原作で丁寧に積み上げられていた背景が省略されています。
原作小説
兄が相楽ハルキ
嶌衣織の兄が歌手・相楽ハルキであることは、物語の終盤で初めて明かされます。
しかし、相楽ハルキという存在自体は序盤からさりげなく登場しており、後の告発内容につながる伏線として機能しています。
・グループディスカッションで仲間意識が芽生えていた頃の飲み会で、袴田亮が酔った勢いで、当時世間から反感を買っていた相楽ハルキの曲を大声で歌う。
・スピラリンクスで嶌衣織の後輩にあたる鈴江真希が、相楽ハルキの熱心なファンである。
これらの描写は一見すると何気ないエピソードですが、物語の終盤で“嶌衣織の告発内容”が明らかになる際に、伏線として効いてきます。
足に障害を抱えている
大学2年生のとき、兄・相楽ハルキが運転する車の助手席で事故に遭い、嶌衣織は骨盤骨折の重傷を負います。
後遺症によって歩行に障害が残り、この事実も物語の終盤で初めて明かされます。
・波多野は歩くペースを嶌衣織に合わせ、他の学生にも「少しゆっくり歩こう」と声をかけていた。
・九賀蒼太は障害者用の駐車スペースに車を停めており、さらに待ち合わせ場所を28階から1階の喫茶店へ変更していた。
これらの行動は当初は気遣いとして描かれますが、後に嶌衣織の障害が明らかになることで、伏線として意味を持つ描写へと変わります。
まとめ|就活の闇を描いた作品
映画『六人の嘘つきな大学生』は、6人の若者の行動に目が向きがちですが、その根底には“就職活動が抱える闇”と“人間の本質”を鋭く描いた重厚なテーマが流れています。
特に前半はテンポよく物語が進み、観客を一気に引き込む力があります。
後半では、主役である嶌衣織の告発内容が最後まで明かされないという大胆な改変が取られており、これも製作側の意図的な演出と考えられます。
就職活動という珍しい題材を扱いながら、ミステリーとしても人間ドラマとしても見応えのある作品で、一度は触れておきたい作品だと感じます。