実写化の評価

ストロベリーナイト・シリーズ3作目の映像化であり、初の映画作品となった『インビジブルレイン』。

本作では、漫画喫茶で働く情報屋・柳井健斗(26歳)と、暴力団極清会会長・牧田勲(48歳)が物語の鍵を握ります。

特に柳井健斗は、幼少期から抱える深い闇が物語の中心に位置づけられています。

しかし、約2時間という限られた尺の中で、主人公・姫川玲子と牧田勲の恋愛要素に加え、原作にはない菊田を含めた三角関係の描写が盛り込まれています。

姫川と牧田の2ショットが過度に多いため、そのたびに物語の進行が停滞し、結果として柳井健斗の抱える闇や真実が十分に描かれませんでした。

観客が柳井健斗を理解するための時間が大幅に削られてしまった印象です。

こうしたバランスの問題から、今回は星3つの評価としました。

作品概要と本記事のポイント

『インビジブルレイン』は誉田哲也による警察小説で、捜査一課に配属された女性警官・姫川玲子と、彼女を支える個性豊かな刑事たちが凶悪事件に挑む、姫川玲子シリーズ第4作です。

2013年にはシリーズ初の映画作品として公開され、物語の大半が雨の中で進む独特の演出が話題となりました。

本記事では、原作と映画の主な違いや、映像化に際して加えられた改変点をわかりやすく整理して解説します。

映画『インビジブルレイン』の紹介

降りそそぐ苦しみは、愛か狂気か――

監督:佐藤祐市
出演:
<警察側>竹内結子、西島秀俊、小出恵介、宇梶剛士、丸山隆平、津川雅彦、遠藤憲一、渡辺いっけい、髙嶋政宏、生瀬勝久、武田鉄矢、ほか
<警視庁>三浦友和、今井雅之、柴俊夫、田中哲司、ほか
<犯人側>大沢たかお、染谷将太、金子賢、金子ノブアキ、ほか
上映時間:127分
公開:2013年1月26日

小説『インビジブルレイン』の紹介

シリーズ中もっとも切なく熱い結末!

著者:誉田哲也
出版社:光文社
刊行日:2009年11月25日/文庫化:2012年7月(光文社)

『インビジブルレイン』あらすじ(ネタバレあり)

警察側|捜査本部

暴力団のチンピラである小林充が刺殺された事件を受け、姫川・日下ら捜査一課と組対四課による合同捜査が始まります。

暴力団同士の抗争の可能性も浮上する中、「犯人は柳井健斗」というタレコミが寄せられます。

しかし警察上層部から「捜査線上に柳井の名が出ても追及してはならない」という不可解な指示が下されます。隠ぺいされようとする事実は何か――。

反発する姫川は、自身の部下たちを巻き込まないように、単独で柳井の行方を追い始めます。

犯人側|柳井健斗と牧田勲

柳井健斗は、姉を殺した小林充への復讐資金を得るため、ヤクザに情報を売って金を稼ごうとします。

しかし思うように成果は上がらず、状況はなかなか好転しません。

そんな中、極清会の牧田との取引だけは順調に進んでいました。

牧田は柳井が持つ情報を「とりあえず全部買う」と申し出て、それを自分が必要としている相手に売りさばくことを提案します。

こうして二人の協力関係が始まり、やがて柳井は、自身が抱える復讐の計画について牧田に打ち明けるようになります。

原作と映画の違い(ネタバレあり)

恋愛要素の拡大

原作小説

原作小説は姫川玲子と牧田勲の恋愛描写は控えめで、必要最低限にとどめられています。

2人が惹かれ合い個人的に会う場面はあるものの、小林充殺害事件に牧田が関与している可能性が浮上した段階で、姫川は即座に捜査官としての立場を優先し、牧田の逮捕へと方針を切り替えます。

映画

映画版は序盤こそ警察映画らしいテンポの良い展開が続きますが、中盤以降は姫川玲子と牧田勲の2人を中心とした恋愛描写が大幅に増えます。

さらに、原作には存在しない「菊田を含めた三角関係」まで盛り込まれており、恋愛要素が物語の比重を大きく占める構成になっています。

その結果、恋愛描写が増えた分だけ物語の進行がやや停滞し、展開が遅く感じられる点は否めません。

ストロベリーナイト・シリーズの特徴である、殺人事件を軸にした緊張感あるストーリーが薄まってしまっている点は、惜しいところです。

柳井健斗の闇

原作小説

原作小説では、各章の冒頭が柳井健斗のモノローグで始まり、彼が物語の核心を握る存在であることが強く示されています。

柳井健斗が11歳のとき、母親が病気で亡くなったことをきっかけに、家庭の歯車は大きく狂い始めます。

当時13歳だった姉・千恵は父親から性的虐待を受けるようになり、その行為は千恵が19歳になるまで続きました。

健斗はその関係を長い年月にわたり何度も目撃し、心に深い傷を負うことになります。

やがて父親が出張で家を空けた隙に、千恵は逃げるようにアパートへ移り住み、健斗に合鍵を託します。

しかしその矢先、千恵はアパートで殺害され、健斗が第一発見者となってしまいます。さらに、犯人として疑われた父親は警察署内で銃を奪い、自ら命を絶ちます。こうして「犯人死亡」のまま、千恵殺害事件の捜査は打ち切られました。

父と姉の歪んだ関係、姉の死、父の自殺――。

すべてを目の当たりにした17歳の健斗は、姉の復讐だけを生きる目的とし、最低限の栄養だけを摂り、ただ呼吸するだけの空虚な人生を歩むようになります。

映画

映画では、柳井健斗の家庭環境については簡潔に触れられるものの、彼が抱える心の闇や姉への復讐心、さらには情報屋へと至る過程が描かれていません。

そのため、観客にとっては「なぜ柳井と牧田が知り合いなのか」という関係性が見えにくい印象になっています。

染谷将太が演じる柳井健斗は、虚無を宿した“死んだ目”が圧倒的にハマっていただけに、人物像の掘り下げが十分でなかった点は惜しいところです。

まとめ|シリーズでは珍しい恋愛要素の作品

『インビジブルレイン』はストロベリーナイト・シリーズで唯一の映画化作品として大きな期待を集めました。

しかし恋愛要素の拡大や、物語の核心を担う柳井健斗の人物像が十分に描かれていない点など、実写化における改変が必ずしも成功しているとは言えませんでした。

とはいえ、シリーズでは珍しい恋愛要素が盛り込まれていることや、犯人側の主役を牧田勲として捉えることで、別の視点から楽しめる作品にもなっています。