実写化の評価
ドラマ版『石の繭』は、猟奇殺人事件の捜査を巡る知能犯との攻防を緊張感たっぷりに映像化しており、全体として非常に精度の高い仕上がりです。
特に塔子の成長過程と捜査一課の重厚な空気感は、原作の魅力を損なわずに再現されています。
唯一惜しいのは、夜の捜査会議後の打ち合わせ場所が原作から改変されていた点です。物語のラストでこの場所が重要な伏線であったことが判明するだけに、舞台設定の変更は物語のリアリティにほころびを生じさせました。
この改変さえなければ、原作ファンも納得できる満点評価(星5つ)に値する実写化ドラマだったと言えるでしょう。
作品概要と本記事のポイント
『石の繭』は麻見和史による警察小説シリーズの第1作目で、主人公は警視庁捜査一課の新人刑事・如月塔子です。
2015年にWOWOW「連続ドラマW」(全5話)として映像化され、原作の緊張感と知能犯との攻防を重厚に描いた作品となりました。
本記事では原作とドラマの違いを徹底解説します。
ドラマ『石の繭』の紹介
その変死体は、何を意味するのか。
猟奇殺人事件の犯人と女性刑事の息詰まる攻防戦を描く、ノンストップ・クライムサスペンス。
監督:内片輝
出演:木村文乃、青木崇高、古川雄輝、渡辺いっけい、ほか
放送局:WOWOW「連続ドラマW」
話数:全5話/各話約50分
放送日:2015年8月16日~9月13日
小説『石の繭』の紹介
警察小説の大本命 期待の新シリーズ、始動!
著者:麻見和史
出版社:講談社ノベルス
刊行日:2011年5月10日/文庫化:2013年(講談社文庫)
シリーズ:警視庁殺人分析班シリーズ第1作
『石の繭』あらすじ(ネタバレあり)
作品概要|全体の流れ
警視庁捜査一課に配属された新人刑事・如月塔子は、亡き父の遺志を継ぎ初の捜査に臨みます。新橋の廃ビルでモルタルに覆われた猟奇的な遺体が発見され、捜査本部に犯人を名乗る男〈トレミー〉から挑発的な電話が入ります。
塔子は交渉役に選ばれ、知能犯との緊迫した心理戦に巻き込まれていきました。〈トレミー〉は警察を翻弄しながら次々と事件を引き起こし、捜査は混迷を深めていきます。塔子は仲間と共に真相へ迫り、やがて犯人の狙いと仕掛けられた伏線が次第に明らかになっていきます。
犯人トレミーの視点|復讐と心理戦
〈トレミー〉と名乗る犯人は、警察を翻弄する知能犯です。彼は猟奇的な遺体を残すことで捜査を揺さぶり、挑発的な電話で捜査本部を刺激しながら自らヒントを与え、事件を意図的に進展させました。
塔子を交渉役に指名し、彼女を試すように心理戦を仕掛けて警察の動きを操ろうとしました。やがて明らかになるのは、彼が17年前の誘拐事件の被害者であり、その過去に対する復讐心に突き動かされているという事実です。
次々と新たな事件を起こしながら、最終的に自らの真意を明かす仕掛けを用意し、塔子との対峙を通じて物語は知略と執念に導かれた緊迫の結末へと導かれます。
原作とドラマの違い(ネタバレあり)
夜の捜査会議後の打ち合わせ場所|改変の影響
塔子が所属する捜査一課11係では、夜の捜査会議後に食事を取りながら「殺人分析班」と呼ばれる情報整理や新たな筋読みを行い、翌日以降の捜査に活かしています。
原作小説
小説版『石の繭』では、居酒屋の隠し部屋のような個室が舞台となり、外部に情報が漏れる心配のない密談の場として描かれていました。
ドラマ
ところがドラマ版では、他の客が引けた後のカフェのオープン席に置き換えられました。店長やアルバイトが残る中で猟奇殺人事件の捜査情報を堂々と話す演出は、現実感に欠け、大きな違和感を残しました。
この改変は作品全体の完成度に影響を与えた唯一の改変であり、実写化の評価を満点とするには惜しい部分となりました。
父親の回想シーン|如月功の多用と課題
塔子の父・如月功は元捜査一課の刑事で、10年前に病死しています。
原作小説
小説版『石の繭』では、功の存在は塔子の記憶やベテラン刑事の言葉で語られるのみでした。
ドラマ
一方、ドラマ版では頻繁に父親の回想シーンが挿入されています。
功が担当した過去の誘拐事件が今回のトレミー事件につながるため一部の回想は有効ですが、子供時代の塔子と父親が実家で過ごす場面などは物語に直接関係せず、不要に思えました。
塔子の捜査一課での経験年数|新人設定の強調
原作小説
小説版『石の繭』では、塔子は捜査一課に配属されてから一年半が経過しており、新人ながらも一定の経験を積んだ刑事として描かれています。
ドラマ
一方、ドラマ版では捜査一課での初めての事件がトレミー事件となり、まったくの新人として捜査に臨む姿が強調されます。事件を通じて塔子が刑事として成長していく過程は、ドラマならではの大きな見どころとなっています。
まとめ|『石の繭』とスピンオフ『悪の波動』鑑賞のすすめ
小説を全5話の構成でドラマ化したことで時間的にも適切に収まり、重厚で緊張感のある物語がテンポよく展開されます。
原作の持つ知能犯との心理戦や猟奇事件の不気味さは映像化によってさらに際立ち、視聴者を強く引き込みます。細部の改変には賛否があるものの、全体として原作の魅力を損なわず、緊迫感と人間ドラマを兼ね備えた完成度の高い実写化作品といえるでしょう。
さらに、本編のスピンオフとして制作された『悪の波動 殺人分析班スピンオフ』(全5話)では、殺人鬼トレミーを主人公に据え、彼の過去と犯行に至る経緯を描いた前日譚が展開されます。
『石の繭』で恐怖を体現した犯人像が、どのように形成されていったのかを補完する内容となっており、本編をより深く理解するうえで欠かせない作品です。『石の繭』を楽しんだ人には、ぜひ併せて視聴してほしい一本です。