実写化の評価
ストロベリーナイト・シリーズ最初の映像化となるSPドラマ版『ストロベリーナイト』は、姫川玲子をはじめとする捜査一課の個性豊かな刑事たちの初登場を鮮烈に描き、重厚で緊張感のある世界観を原作の雰囲気そのままに再現しています。
一方で、106分という限られた尺の中で、主人公・姫川玲子の特殊な生い立ちを描く必要があったため、犯人側の深い闇に踏み込む描写はどうしても簡略化されました。
これは構成上やむを得ないものの、原作が持つ“闇の深さ”という魅力を十分に引き出しきれなかった点は惜しいところです。
とはいえ、映像としての完成度は非常に高く、本来であれば満点評価に値します。
ただ、この後に続く連続ドラマ版が圧倒的な完成度を誇るため、シリーズ内でのバランスを考慮し、SPドラマ版は星4つの評価としました。
作品概要と本記事のポイント
『ストロベリーナイト』は誉田哲也による警察小説で、捜査一課に配属された女性警官・姫川玲子と、彼女を支える個性豊かな刑事たちが凶悪事件に挑む、姫川玲子シリーズ第1作です。
2010年にフジテレビで単発のスペシャルドラマとして初めて映像化され、その後、連続ドラマ版や映画版へと展開していきました。
本記事では、原作とスペシャルドラマ版の違いや、映像化に伴う主な改変点をわかりやすく整理して解説します。
SPドラマ版『ストロベリーナイト』の紹介
アタマの中で、殺人犯が巣喰っている。
監督:佐藤祐市
出演:
<警察側>竹内結子、西島秀俊、桐谷健太、宇梶剛士、国仲涼子、津川雅彦、遠藤憲一、渡辺いっけい、髙嶋政宏、生瀬勝久、武田鉄矢、ほか
<犯人側>林遣都、谷村美月、ほか
放送局:フジテレビ系
放送時間:106分
放送日:2010年11月13日
小説『ストロベリーナイト』の紹介
こんな警察小説を待っていた!
著者:誉田哲也
出版社:光文社
刊行日:2006年2月25日/文庫化:2008年9月(光文社)
『ストロベリーナイト』あらすじ(ネタバレあり)
警察側
都内の公園にあるため池付近で、ブルーシートに包まれた男性の遺体が発見され、捜査一課・姫川班が捜査に乗り出します。
姫川の鋭い洞察力と現場検証からため池をさらに調べた結果、同じようにブルーシートで覆われた遺体がもう一体見つかります。
どちらの遺体にも生前に激しい暴行を受けた痕跡があり、警察は怨恨による犯行とみて捜査を進めていきます。
事件は連続殺人として扱われ、捜査網を広げて関係者を洗い出している最中、埼玉県の漕艇場の川の中から新たに11体のブルーシート遺体が発見されます。
捜査が進むにつれ、被害者たちが「毎月第2日曜日の夜」に決まって外出していたという共通点が浮かび上がり、そこで浮かび上がった謎の言葉――「ストロベリーナイト」。
犯人側
東大法学部を卒業し、将来は警察官僚としての道が約束されていた北見昇。
しかし彼は、学生の頃から刺激を求めてさまざまな“悪事”に手を染め尽くし、もはや日常に退屈すら感じていました。
トラブルが起きても金で解決し、どこか虚無的な日々を送っていました。
そんな頃に出会ったのが、エフ(深沢由香里)。彼女の“天才的な殺しの才能”を目の当たりにした北見は、その危うさと完成度に強く魅了されます。
やがて北見は、エフの才能を最大限に発揮できる“舞台”を整えるため、独自の殺人イベント「ストロベリーナイト」を企画・運営するようになっていきます。
原作とドラマの違い(ネタバレあり)
深沢由香里の闇
ドラマ
ドラマ版は約2時間という限られた尺の影響で、実行犯である深沢由香里の登場は物語の終盤に集中しています。
思春期に受けた虐待を示すシーンもわずかに挿入されていますが、あまりに短く背景が深掘りされないため、視聴者には「なぜ彼女が連続殺人へと至ったのか」という核心が十分に伝わらないまま物語が幕を閉じます。
必要最低限の情報だけが提示される構成になっているため、由香里の闇や動機は“謎のまま”という印象が残る描写になっています。
原作小説
父母殺害まで
深沢由香里の母が再婚した相手は、元暴力団員で薬物依存を抱えた男でした。
由香里は幼い頃から義父の暴力と性的虐待にさらされ、逃げ場のない生活を送っていました。
中学生になる頃には精神は完全に崩壊し、世界が“灰色”にしか見えないほど精神が追い詰められていきます。
14歳のある日、義父から再び激しい暴力を受けていた最中、由香里の中で長く続いていた灰色の世界に、初めて“色”が差し込む瞬間が訪れます。
制服のポケットから落ちたカッターナイフが視界に入りました。
男は、何が起こったのか分からないという顔で僕を見下ろした。
引用元:誉田哲也『ストロベリーナイト』光文社
喉元を押さえた掌から、真っ赤な血が飛沫となって散る。
(中略)
「……きれい」
僕は思わず呟いた。
この体験が、彼女の価値観を決定的に変え、後の人生を大きく歪めていく転機となりました。
父母殺害後
事件後、両親の遺体は3歳年上の兄・深沢康之が家ごと焼却し、康之は放火の罪で実刑判決を受けます。
由香里は児童養護施設へ移されますが、その後も精神的な不安定さから施設と精神科病院を行き来する生活が続きました。
診断名としては「パニック障害、抑うつ症、リジン症、自傷行為」などが挙げられています。
最初に病院へ運ばれたのは救急搬送でした。
由香里は施設で、自分の右の乳房をカッターナイフで切り取り、損傷を負った状態で病院に駆け込まれます。
その際、左腕には長年の自傷行為による痕跡が残り、皮膚が硬化していました。
そして入院中に左の乳房を切り取りました。
退院後も精神状態は安定せず、歌舞伎町の路上で全裸になり、自分で尻の肉と腹の肉を削ぎ落とす自傷行為に及びます。
そんな中、同年代の女性・マコだけが由香里に寄り添い、唯一の心の拠り所となります。
しかしマコは暴行事件に巻き込まれ命を落としてしまいます。
由香里はマコの仲間たちと共に犯人を突き止め、報復として実行犯をカッターナイフで殺害します。
このとき実行犯の仲間として犯行現場に居合わせた人物が、後に「ストロベリーナイト」を主催する北見でした。
ここから、由香里と北見の歪んだ関係が始まっていきます。
ストロベリーナイトの運営人数
ドラマ
ドラマ版では、ストロベリーナイト(殺人ショー)を企画・実行していたのは、主導役の北見と実行犯の由香里の2名による設定になっています。
原作小説
原作では、北見の東大時代の仲間である大川春信が加わり、3名体制でストロベリーナイトを運営しています。
大川は理学部で情報科学を専攻しており、招待客に関する情報処理などを担当する役割を担っていました。
さらに、警察官として捜査に加わる北見のアリバイを成立させるため、大塚巡査の射殺や姫川殺害も、大川が実行する予定になっていました。
まとめ|シリーズ初作で衝撃を与えた作品
SPドラマ『ストロベリーナイト』は、のちに連続ドラマ・映画へと展開される「姫川玲子シリーズ」の最初の映像化作品として、強い衝撃を与えた一作です。
刑事たちの執念がにじむ重厚な空気感や緊張感を高める効果音など、映像作品としての完成度も高く仕上がっています。
また「姫川玲子シリーズ」は、犯人側の闇や苦悩にも深く踏み込み、単に犯人逮捕で幕を閉じる一般的な刑事ドラマとは異なる余韻を残す点が特徴です。
本作『ストロベリーナイト』も例外ではなく、視聴後に重いテーマが静かに残る構成になっています。
原作シリーズの初作であり、映像化の第一歩としても強烈な印象を刻んだ本作は、シリーズを知るうえでも必見の作品です。視聴を強くおすすめします。