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実写化の評価

ドラマ『彼女たちの犯罪』は、一見つながりのない複数の「彼女」たちが、それぞれの目的のために同じ犯罪へと手を染めていく過程と、彼女たちを追う刑事の攻防を描いたサスペンス作品です。

全10話という構成もあり、物語の大筋は原作に忠実でありながら、ドラマ独自のオリジナルエピソードも複数盛り込まれています。

惜しいと感じたのは、主犯格の人物像が原作の“冷徹な怪物”から“人間味のあるキャラクター”へと改変されていた点です。

原作が持つ冷徹さや得体の知れなさを期待していた視聴者にとっては、賛否が分かれる変更でしょう。

複数の「彼女」たちが登場する物語だからこそ、主犯格のひとりだけは原作通りの“冷酷さ”を貫いてほしかったという思いが残ります。

また、最終章となる第9話・第10話では、警察からの逃亡劇が中心となり、それまでのテンポの良い展開が失速してしまった点も惜しい部分でした。

それでも、実写化としての完成度は高く、総合的には星3つと評価しました。

作品概要と本記事のポイント

横関大によるサスペンス小説『彼女たちの犯罪』は、接点のない3人の女性が思わぬ形で“犯罪”へと手を染めていく物語です。

2023年には全10話の連続ドラマとして実写化され、深川麻衣・前田敦子・石井杏奈のトリプル主演が話題を集めました。

本記事では、原作とドラマ版の違いや改変点を中心に、その魅力を丁寧に解説します。

ドラマ『彼女たちの犯罪』の紹介

どこにでもいそうな女性たちが“普通の幸せ”を追い求める中、その先にあったのは“犯罪”だった。

監督:菊地健雄、高橋名月
出演:深川麻衣、前田敦子、石井杏奈、さとうほなみ、毎熊克哉、鈴木康介、野間口徹、ほか
放送局:日本テレビ系
放送時間:全10話/各話約50分
放送日:2023年7月20日〜9月22日

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小説『彼女たちの犯罪』の紹介

海であがった女性の死体。事件の影には、彼女と彼女と嘘と罠。

著者:横関大
出版社:幻冬舎
刊行日:2019年10月10日/文庫化:2022年10月(幻冬舎文庫)

『彼女たちの犯罪』あらすじ|彼女たちの関係と真相(ネタバレあり)

作品概要|序盤

静岡県伊東市の海岸で、女性の飛び降り自殺と思われる遺体が、漁船のスクリューに引っかかった状態で発見されます。

警察の捜査により、その遺体は東京都世田谷区の自宅から行方不明になっていた「神野由香里」であることが判明。

彼女は世田谷で暮らす専業主婦でした。

しかし、この出来事は単なる自殺事件ではありません。

やがて明らかになるのは、“彼女たち”が周到に仕組んだ犯罪の序章にすぎませんでした。

作品概要|彼女たちの目的

一見なんの接点もないように見える「彼女」たちは、それぞれが抱える事情や願いを胸に、やがてひとつの目的のために手を組みます。

自分の人生を変えるため、そして望む未来をつかむために、彼女たちは協力し合い、ひとつの犯罪を計画します。

日村 繭美(32歳)

ドラマ:深川麻衣

大手企業の広報課で働く日村繭美は、仕事も順調で充実した日々を送っています。

しかし、大学時代の友人や職場の同世代が次々と結婚・出産していく中で、自分が取り残されていくような強い焦りを抱いています。

強まる結婚願望のなか、大学の先輩で医師の神野智明と偶然再会。

智明が既婚者であることを知らないまま交際を始めてしまいます。

智明の医師としての地位、整った容姿、資産家の家庭という背景も相まって、繭美の中では“智明と結婚し、医師の妻としての座をつかみたい” という願望が強く膨らんでいきます。

神野 由香里(34歳)

ドラマ:前田敦子

夫は整形外科医の神野智明

神野由香里は世田谷さくらぎ記念病院で看護師として働いていた頃、ひとつ年上の智明と出会い、1年の交際を経て結婚しました。

現在は専業主婦として、桜木町の高級住宅街にある神野家で、智明の両親と同居しています。

しかし、その暮らしは外から見れば“裕福で恵まれた生活”である一方、家政婦のように家事を任され、また子どもに恵まれないことを理由に義母から強いプレッシャーを受け続ける日々でした。

自由のない息苦しい生活に追い詰められていく中、同じ町内に住む同世代の女性・玉名翠と出会います。

玉名 翠(34歳)

ドラマ:さとうほなみ

高級住宅街・桜木町で生まれ育った玉名翠は、かつて小学校教員として働いており、神野智明とは幼馴染の同級生です。

しかし3年前に両親を事故で亡くし、さらにその直後には自身が子宮頸がんを患い、子どもを産めない体に。

両親を失い、新しい家族を持つ未来も閉ざされた現実は、翠の心を深く蝕んでいきました。

精神的に不安定となった翠は、悲しみに沈む日々の中で次第に自宅へ引きこもる生活へ。

両親が遺した十分すぎる貯蓄や保険金、高級住宅街の家など、経済的には一生困らないほどの資産があるにもかかわらず、“生きる目的”を見いだせず、心は空虚なまま。

やがて翠は“死に場所”を求めるようになっていきます。

熊沢 理子(29歳)

ドラマ:石井杏奈

この物語における「彼女たち」の主犯格となる人物です。

桜木警察署・刑事課強行犯係の巡査部長である熊沢理子は、伊東で発見された自殺と見られる「神野由香里」の事件を担当しながら、その裏で自らの計画を次々と進めていきます。

理子の真の目的は、神野智明への復讐、そして――。

原作とドラマの違い(ネタバレあり)

「彼女たち」の関係

原作小説

原作では、主犯格は熊沢理子であり、その従犯として神野由香里が行動を共にします。

物語の中心で犯罪計画を主導しているのは、この2人です。

まず理子と由香里は、「神野由香里」の偽装自殺を成立させるため、自殺願望を抱えていた玉名翠を由香里の身代わりとして殺害。

翠に由香里の服やアクセサリーを身につけさせ、崖から転落させることで“由香里の自殺”を演出します。

一方、日村繭美は由香里の夫・神野智明の不倫相手として利用される存在にすぎず、玉名翠の殺害をはじめとする計画の核心部分は一切知らされません。

原作では、理子と由香里の2人が圧倒的な主導権を握り、繭美はあくまで“駒”、そして玉名翠は巻き込まれた“被害者”として描かれています。

ドラマ

ドラマ版では、主犯格は熊沢理子であるものの、日村繭美・神野由香里・玉名翠の4人が“対等な立場の仲間”として計画を話し合い、協力しながら実行していきます。

自殺願望を抱えていた玉名翠は、自ら由香里の身代わりになることを望み、由香里と繭美は警察の疑いを神野智明へ向けるための工作に積極的に加担します。

原作のような“主犯と従犯”という上下関係ではなく、ドラマでは4人が同じ目的を共有し、互いを支え合いながら犯罪計画を進めていく姿が描かれています。

主犯格|熊沢理子の闇と真の目的

原作小説

熊沢理子の闇

大学時代、熊沢理子は先輩である日村繭美に可愛がられる後輩として穏やかな学生生活を送っていました。

しかし、1年生の学園祭の夜、同じ大学の神野智明から性的暴行を受け、そのショックから静岡の実家へ戻り、最終的には大学を退学します。

実家に戻った後、理子は智明の子どもを妊娠していることに気づきます。

悩み抜いた末に出産を決意し、生まれた男の子に大輔と名づけ、母の子ども――つまり“理子の弟”として育ててもらうことになります。

その1年後、理子は大輔を実家に託し、東京の別の大学へ進学。

その翌月から10年以上にわたり、毎月実家へ多額の仕送りを続けます。

理子自身の学費や生活費もかかる中で、実家の母は「理子はどうやって稼いでいるのか?」と不思議に思うほどの額であり、理子が背負ってきた人生の重さがうかがえます。

大学卒業後、理子は警察官となり、密かに神野智明の身辺調査を始めます。

熊沢理子の目的

熊沢理子は末期がんを患っており、余命はわずかという状況にあります。

そんな彼女の“真の目的”は、玉名翠が持つ巨額の資産を息子・大輔に残すことでした。

神野智明への復讐は、あくまで“由香里殺害の容疑で誤認逮捕させる程度”のもので、智明の人生を徹底的に破壊するような復讐ではありません。

その理由は、将来、自分の息子である大輔を資産家の神野家に託す必要があったためです。

さらに、偽装自殺で殺害した玉名翠の資産は、大輔が成人した際に受け取れるよう手配をします。

理子にとって最も重要だったのは、翠の資産を“大輔の未来”へつなぐためのわずかな時間を確保することだけでした。

そのため、翠の遺体が崖から落ちた後、すぐに発見されて別人と判明しても、あるいは長期間見つからなくても、理子にとってはどちらでも構わなかったのです。

ドラマ

ドラマ版の熊沢理子は、原作とは大きく異なり“人間味のある存在”として描かれています。

彼女の目的はあくまで神野智明への復讐であり、玉名翠の資産には一切関与しません。

原作との最も大きな違いは、理子が神野智明に対して徹底的な復讐を遂げようとしている点です。

可能であれば逮捕・起訴にまで追い込みたいと考えており、その動機は自身が受けた性的暴行への報復であると同時に、尊敬する繭美に“智明の本性”を気づかせるためでもありました。

さらに理子は、由香里には玉名翠として新しい人生を歩んでほしいと願い、その計画を練っていきます。

ドラマ終盤で彼女たちに逮捕の危険が迫った際には、理子は繭美に対し、
「最悪の場合、全部私がやったことにすればいい」
と指示し、仲間を守ろうとする姿勢を見せます。

このように、ドラマ版の理子は原作のような“冷徹なモンスター”ではなく、感情や葛藤を抱えた複雑な人物として再構築されています。

ドラマとしては魅力的な改変である一方、この理子像の変化は原作ファンの間で賛否が分かれるポイントになっています。

大胆な改変①|神野由香里の正体

神野由香里の出生設定には、大胆な改変が加えられています。

原作小説

原作の神野由香里(34歳)は、三重県出身のごく普通の元看護師です。

実家とも特に疎遠ではなく、家庭環境に大きな問題はありません。

ドラマ

ドラマ版で前田敦子が演じる神野由香里は、原作とは大きく異なる“戸籍のない女性”として描かれています。
幼少期は「山下アイ」として育ちました。

アイの母は複数の男性と関係を持ち、アイを妊娠しても誰にも認知されないまま出産。

出生届を出さなかったため、アイには戸籍がありませんでした。

その後、母はアイを祖母に預けて姿を消しますが、祖母は認知症でアイを認識できず、家は荒れ放題。

学校へは一度も通わせてもらえず、アイはゴミ捨て場から拾った教科書を読みながら独学で育ちます。

18歳のとき、高架下の同世代の溜まり場で遠藤由香里と出会い、彼女が不要になった看護学校の入学証を譲り受けて看護学校へ通います。

しかしその後、遠藤由香里から「戸籍を貸した代金」として金銭を要求され続け、医師の神野智明と結婚した後はさらに要求がエスカレートしていきます。

大胆な改変②|偽造自殺した女性の正体

序盤で静岡県伊東市の海岸で発見される、飛び降り自殺と見られる遺体の“人物”が、原作とドラマでは異なります。

原作小説

遺体は玉名翠です。

理子と由香里は「神野由香里」の偽装自殺を成立させるため、自殺願望を抱えていた玉名翠を身代わりとして殺害します。

翠に由香里の服やアクセサリーを身につけさせ、崖から転落させることで“由香里が自殺した”ように見せかけます。

ドラマ

ドラマ版で遺体となるのは、前田敦子演じる神野由香里に戸籍を譲り、金を要求していた「遠藤由香里」です。

偽装自殺の計画が進む中、行方不明になっていた山下アイ(=神野由香里)から金を取ろうとしていた遠藤由香里は、偶然、日村繭美が電話で話していた“犯罪計画”を聞いてしまいます。

繭美に山下アイの居場所をしつこく問い詰めようとした際、もみ合いになり転倒。
頭を強く打ち、重傷を負います。

繭美は負傷した遠藤由香里を車に乗せ、偽装自殺を行う崖へ運び、玉名翠の代わりに“この遠藤由香里を身代わりにする” という案を理子と由香里に提案します。

ここから、彼女たちの計画は少しずつほころび始めていきます。

終盤からラストシーンの改変

熊沢理子

原作小説

世田谷警察署で理子とコンビを組む上司・上原は、熊沢理子の犯罪とその目的に気づきます。

しかし、余命わずかな理子は“逃げ切れる”と確信しており、上原の追及にも揺らぎません。

上原の言葉を遮るように理子が言った。
「絶対に喋りませんから。
どんな証拠を突きつけられても必ず黙秘を貫き通す覚悟があります。
死ぬまで絶対に喋りません」

引用元:横関大『彼女たちの犯罪』幻冬舎

さらに上原は、世田谷警察署の署長と理子が男女の関係にあることにも気づき、この事件が“闇に葬られてしまうのではないか”という不穏な予感を抱きます。

ドラマ

防犯カメラの映像から、理子・由香里・繭美の3人が共犯関係にあることが発覚し、彼女たちは逃亡を図るものの、最終的に逮捕されます。

ただしこの逃亡劇は、複数の刑事が数十メートルの至近距離まで迫っているにもかかわらず、何度も逃げ切る展開が続くため、やや現実味に欠ける“茶番”のように見えてしまう点が惜しいところです。

逮捕された理子は、すでに病魔に侵されており、長くは生きられない状態。

ベッドに横たわったまま取り調べを受ける理子は、
「自分がすべてやった」
と自供し、仲間を守ろうとする姿勢を示します。

神野由香里

原作小説

玉名翠の資産と戸籍を手に入れた由香里は、東京を離れ、自由な新しい人生を歩み始めます。

物語の終盤では、静岡県伊東市にある思い出のレストラン――かつて智明と訪れたドライブインでひとり食事をしています。

その姿を見た店員が、ニュースで報じられた“自殺した神野由香里”だと気づき、伊東市の警察へ通報。

原作小説は、この瞬間を最後に幕を閉じ、由香里の行く末を読者に委ねるような余韻を残して終わります。

ドラマ

警察からの逃亡劇の末、由香里は東京都世田谷区の神野家へ戻ります。

かつて対立していた義父と義母は、意外にも彼女をやさしく迎え入れます。

しかしその直後、智明が熊沢理子を呼び出して“仕返し”をしようと動き出したため、由香里は智明を追って外へ向かい、そこで理子と合流します。

その場所に警察が到着し、由香里は理子と繭美とともに逮捕されます。

日村繭美

原作小説

主犯格である熊沢理子と神野由香里に利用された日村繭美は、当初、由香里の偽装自殺について、

「崖に由香里の遺品を残し、智明を少し懲らしめる程度の計画」

としか聞かされていませんでした。

しかし、実際に遺体が発見されたことで繭美は動揺します。

その後、理子と由香里から遺体が玉名翠だと知らされますが、繭美は翠と面識がなく、状況を理解できないまま事件に巻き込まれていきます。

そして、遺体発見の事実を警察に伝えなかったことが、結果として犯人隠避罪に該当する可能性を生み、繭美は知らぬ間に犯罪の渦中へと引きずり込まれました。

ドラマ

山下アイ(=神野由香里)を追っていた遠藤由香里ともみ合いになった際、繭美は彼女を転倒させ、重傷を負わせてしまいます。

その後、負傷した遠藤由香里を車に乗せ、偽装自殺を行う崖へ運び、
「玉名翠の代わりに、この遠藤由香里を身代わりにする」
と理子と由香里に提案。

繭美自身も積極的に犯罪へ加担していく姿が描かれます。

物語のラストでは、理子・由香里とともに繭美も警察に逮捕されます。

まとめ|ドラマ版が描いた「彼女たち」の新たな物語

ドラマ『彼女たちの犯罪』は、原作の骨格を大切にしながらも、キャラクターの背景や関係性、偽装自殺の構図、ラストシーンに至るまで、随所に大胆な改変を加えた実写化作品です。

特に主犯格・熊沢理子の人物像は大きく変わり、原作の“冷徹な怪物”から、感情や葛藤を抱えた“人間味のある女性”へと再構築されています。

この改変はドラマとしての魅力を高める一方で、原作ファンの間では賛否が分かれるポイントになりました。

終盤の逃亡劇やラストの処理にやや粗さはあるものの、全体としては原作のテーマを別角度から照らし出した意欲的な実写化と言えます。

原作が持つ冷徹なサスペンス性と、ドラマ版が描いた「彼女たち」の連帯を軸とした群像劇――どちらも異なる魅力を持つ作品です。